こんにちは、畑岡です。
前回はフェラーリ488GTBという特別なスーパーカーについてお話ししました。今回は、私にとって別の意味で印象深い車となった、ポルシェ・ケイマンGT4について綴りたいと思います。
新たな拠点での相棒
2019年、仕事の関係で新たな生活拠点を設けることになり、その地での足として選んだのがポルシェ・ケイマンGT4でした。当時は日産セレナe-powerとフェラーリ488GTBも所有していたため、生涯初となる3台同時所有の状態となりました。
新しい生活拠点での足としては、実用車を選ぶという選択肢もありましたが、「せっかくなら自分が心から楽しめる車を」という思いから、ポルシェのスポーツモデルに目を向けました。特にGT4は、ポルシェのモータースポーツ部門であるGTラインの技術が惜しみなく投入された特別なモデル。サーキットでの走行も視野に入れながら、日常でも楽しめる一台として選びました。
マニュアルシフトとの再会
このケイマンGT4との出会いは、私にとって久しぶりのマニュアルトランスミッション車となりました。ボクスター以来のマニュアルスポーツカーであり、しかも右ハンドルのマニュアルスポーツカーは初めての経験でした。
最初の印象は正直なところ、「なんとなく重たい感じだな」というものでした。クラッチペダルの踏力やシフトレバーの操作感は、想像していたよりも力強いものが求められ、特に市街地での頻繁なシフトチェンジは少々疲れるとさえ感じました。また、左足でのクラッチ操作と右手でのシフト操作という組み合わせにも、しばらくは違和感がありました。
しかし、数カ月が経ち、徐々に体が慣れてくると、その印象は大きく変わっていきました。最初は「重たい」と感じていた操作感が、「機械的な精度の高さ」「確かな手応え」として捉えられるようになったのです。特にシフトレバーの操作感は秀逸で、各ギアにしっかりと入る時の感触は、まるで精密機械を操作しているかのような満足感をもたらしてくれました。
ミッドシップの水平対向エンジン
ケイマンGT4の最大の魅力は、何と言ってもミッドシップレイアウトに搭載された4.0リッター水平対向6気筒自然吸気エンジンでした。最高出力420馬力という数字以上に印象的だったのは、そのエンジン特性の純粋さと、ドライバーのすぐ背後でエンジンが働く感覚です。
アクセルペダルを踏み込むと、背中のすぐ後ろから響いてくるエンジン音と振動は、他のどの車でも味わえない特別な体験でした。それはまさに「ポルシェの機械的精度の高いマシンが体の近くで動いている感覚」と表現するしかありません。エンジン回転数の上昇に合わせて変化する音色は、まるで楽器のような表情豊かさを持ち、時に厳格に、時に官能的に、ドライバーの耳を楽しませてくれました。
特に印象的だったのは、7000回転を超える高回転域でのフィーリングです。多くの現代車では味わえない伸びやかなサウンドと加速感は、自然吸気エンジンならではの魅力でした。昨今のターボエンジン全盛の時代において、このようなキャラクターのエンジンはますます貴重な存在になりつつあります。
忘れられないブリッピングの感覚
ケイマンGT4で最も印象に残っている体験の一つが、シフトダウン時のブリッピング(ヒールアンドトゥー)です。右足でブレーキを踏みながら、かかとでアクセルを操作してエンジン回転数を上げ、スムーズなシフトダウンを実現するこの操作は、習得には時間がかかりましたが、一度体が覚えるとこれほど気持ちの良いものはありませんでした。
カーブの入り口でブレーキを踏みながらブリッピングでシフトダウンし、エンジン音が高く響き渡る瞬間。そしてコーナーの頂点から再加速していく感覚。これらは今でも体が記憶している、極めて感動的な体験でした。
このようなドライバーの操作に直接応えてくれるマニュアル車の楽しさは、どれだけ電子制御が進化した最新の車でも代替できないものだと実感しました。時に不便さえ感じるマニュアルトランスミッションですが、その「運転する喜び」は比類のないものです。
精緻なハンドリング
ケイマンGT4の走りの特徴は、そのバランスの良さにあります。ミッドシップレイアウトによる理想的な重量配分と低い重心高により、コーナリング時の安定感と俊敏性は驚異的なレベルに達していました。
ステアリングからの情報量も豊富で、タイヤと路面の接地感がダイレクトに伝わってくる感覚は、ドライバーに大きな安心感と自信をもたらしてくれました。フロントのステアリングレスポンスとリアの追従性のバランスが絶妙で、意図したラインを正確にトレースできる喜びは、ワインディングロードで何度も味わうことができました。
また、サスペンションセッティングも秀逸で、スポーツカーとしての硬さはありながらも、路面からの衝撃を適度に吸収する柔軟性も備えていました。長距離ドライブでも疲労が少なく、日常使いと休日のスポーティな走りの両立が見事に実現されていたのです。
日常と非日常の架け橋
ケイマンGT4は、通常のケイマンモデルより一段スポーティな設定ではありましたが、日常での使用にも十分耐える実用性を備えていました。リアとフロントの二つのトランクスペー
スは、買い物や週末の小旅行にも対応できる容量があり、思ったよりも「使える」車だったのです。
東京神奈川間の高速移動や、山間部への小旅行など、様々なシーンでこの車を活用しました。特に休日の早朝、人の少ない山岳路を走る時間は、この車ならではの楽しさを満喫できる特別な瞬間でした。
もちろん、高い足回りと硬めのシートは長時間のドライブではやや疲れを感じることもありましたが、それを上回る「走る喜び」を与えてくれる存在でした。
別れの時
2021年、約2年間の所有の後、ケイマンGT4との別れを迎えることになりました。生活拠点の見直しに伴い、所有する車の整理が必要になったためです。
思い返せば、他の車では味わえない特別な操作感と一体感を味わえたこの車は、特に「運転する」ことの本質的な楽しさを教えてくれました。オートマチック全盛の現代において、マニュアルシフトの車が持つ独特の魅力を再認識させてくれた大切な一台でした。
最後のドライブでは、お気に入りのワインディングロードを選び、意図的にシフトチェンジを多用しながら、この車ならではの感覚を心に刻み付けました。その日の夕方、ディーラーに車を引き渡す際、最後にエンジン音を聞きながら「また必ず乗りたい」と思ったことを覚えています。
おわりに
ポルシェ・ケイマンGT4との2年間は、私に「操る喜び」を再認識させてくれた貴重な時間でした。電子制御やオートメーション技術が進化する現代の自動車業界において、ドライ
バーの技量が直接反映されるこのような車は、ますます貴重な存在になっていくのではないでしょうか。
近年は環境への配慮から電動化が進み、マニュアルトランスミッションを搭載した車種も減少傾向にあります。そんな中で、GT4のような「ピュアスポーツ」の魅力を伝え続けるポルシェの姿勢には敬意を表したいと思います。
車との関係は、時に実用的なものであり、時に情熱的なものです。ケイマンGT4との関係は間違いなく後者であり、短い期間ながらも濃密な思い出を残してくれました。
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