
こんにちは、畑岡です。
前回は社会人として初めて購入した新車、ミツビシ・ギャランについてお話ししました。今回は私の車遍歴の中でも特別な存在だった、マツダ・ロードスターについて綴りたいと思います。
憧れのスポーツカーとの出会い
私が30歳を過ぎた1999年、長年の憧れだったスポーツカーを購入する機会が訪れました。住宅ローンを組む前の、ある意味「最後の贅沢」として中古車市場を探していたところ、出会ったのが初代マツダ・ロードスター(NA型)でした。
言わずと知れた「世界で最も売れたオープンスポーツカー」として、その名をギネスブックに刻んだモデルです。1989年の登場以来、そのピュアなドライビングフィールと手頃な価格で、世界中のモータースポーツファンを魅了してきました。
私が購入したのは、既に9年ほど経過した個体で、走行距離も8万キロを超えていました。それでもボディの赤は鮮やかで、インテリアも大きな傷もなく、当時50万円ほどという価格も私の予算内でした。
運命を決めた一瞬
この車との出会いで最も印象的だったのは、試乗時の体験です。販売店から少し離れた住宅街のコーナーを曲がった瞬間、その軽やかさと正確さに心を奪われました。1.6リッターの自然吸気エンジンは決して強力ではなかったものの、軽量ボディとの組み合わせが生み出す軽快感は、それまで乗ってきた車では味わえないものでした。
「これだ」という確信は、そのコーナリング一つで湧き上がりました。試乗から帰るとすぐに契約手続きを始め、一週間後には私の手元にやってきました。
北風と太陽と時々雨漏り
ロードスターの最大の魅力は、言うまでもなくオープンエアでのドライビング体験です。春の優しい風、夏の夕暮れ時の涼風、秋の澄んだ空気。それらを全身で感じながらのドライブは、日常から解放されるような高揚感をもたらしてくれました。
ただ、中古車ならではの「個性」もありました。雨の日には、助手席側のウィンドウとルーフの接合部から少量の水が漏れることがあったのです。大した量ではなく、タオルを一枚置いておくことで対処していましたが、これも今となっては良い思い出です。
こうした小さな欠点も含めて愛おしく感じるのが、クルマ好きの性(さが)というものでしょう。完璧なものより、少し個性があるもののほうが愛着が湧くものです。
忘れえぬドライブの記憶
ロードスターでの思い出で特に鮮明なのは、友人と二人で挑んだ東京から長野への往復ドライブです。八ヶ岳高原ラインや志賀高原の山道は、このクルマの性能を存分に活かせる舞台でした。
カーブの連続する山道で、ロードスターは魚が水を得たように生き生きと走りました。
長距離ドライブでは、高速道路での巡航性能よりも、峠道での運動性能に優れたロードスターの特性が際立ちました。直線では力強さに欠けても、曲がり角に差し掛かれば、その正確なハンドリングと軽快なフットワークが私に運転の楽しさを再認識させてくれたのです。
高速道路の長い直線では、流線型ではないオープンカーゆえの風切り音が大きく、長時間走るとやや疲れましたが、それも「生きている」感覚を強めてくれる要素でした。現代のクルマの静粛性や快適性に慣れた人々には理解しづらいかもしれませんが、こうした「不便さ」が逆に魅力だったのです。
車と人間の哲学
ロードスターとの生活は、私にクルマについての哲学的な考察も与えてくれました。現代の自動車産業は、常に「より速く、より快適に、より安全に」という方向に進化してきました。確かにそれらは重要な要素ですが、その過程で失われたものも少なくありません。
初代ロードスターが世界中で愛された理由は、まさにその「原点回帰」にあったのではないでしょうか。必要最低限の装備と軽量ボディ、運転に集中できる環境。それは「人間とクルマの対話」を最重視した設計思想だったと思います。
技術者・開発者として知られる前田育男氏が掲げた「人馬一体」という言葉は、この車を語る上で欠かせない概念です。これは単なるキャッチコピーではなく、クルマと人間の理想的な関係性を表した深い哲学だと感じました。
情報技術が発達し、自動運転が現実のものとなりつつある現代において、こうした「運転する喜び」を追求したクルマの存在意義は、むしろ増しているのではないでしょうか。
インターネット時代の別れ
2001年、家庭の事情で手放す決断をした際、私は当時まだ一般には浸透し始めたばかりだったインターネットオークションを利用することにしました。ヤフオクに出品し、全国の愛好家からの入札を受けることになったのです。
この経験自体が新鮮でした。それまでのクルマ売却は、ディーラーや中古車店への持ち込みが一般的でしたが、ネット上で直接次のオーナーとやり取りするというのは、当時としては画期的なことでした。
最終的には北海道の方が落札し、フェリーで送ることになりました。見ず知らずの方に大切な車を託すという不安はありましたが、熱心なロードスター愛好家だという方だったので、「良い手に渡る」という安心感もありました。
それでも、フェリー埠頭で最後の別れをした時は、これまでの車以上に寂しさを感じました。単なる移動手段ではなく、共に風を切り、共に道を走り、共に季節を感じてきたパートナーだったからでしょう。
おわりに
ロードスターとの2年間は、私の車遍歴の中でも特別な輝きを放っています。大人になってから味わった「純粋な運転の楽しさ」は、その後の人生観にも影響を与えました。
物事の本質を見極め、時に合理性だけでなく感性を大切にする。そんな価値観を、このピュアスポーツカーは私に教えてくれたように思います。
現在、新型ロードスターは4代目となり、初代の精神を受け継ぎながらも現代的な進化を遂げています。いつか機会があれば、もう一度あのオープンエアの爽快感を味わってみたいものです。
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