こんにちは、畑岡です。
前回はプジョー206という、起業初期の苦しい時期を支えてくれた足についてお話ししました。今回は、会社経営が少し安定してきた時期に購入した、ポルシェ・ボクスター(986型)について綴りたいと思います。
再びのポルシェとの出会い
起業から2年ほど経った2005年、ようやく会社の経営が軌道に乗り始め、少しだけ余裕が生まれてきました。依然として大きな投資はできない状況でしたが、以前手放したポルシェへの思いは消えておらず、より手頃な価格のモデルとして中古のボクスターに目を付けたのです。
ボクスターは1996年に登場したポルシェの2シーターオープンスポーツカーで、ミッドシップレイアウトの水平対向6気筒エンジンを搭載しています。911の弟分という位置づけながらも、そのバランスの良さから「真のポルシェスポーツカー」と評される一面も持ち合わせていました。
黄色い個性派
私が出会ったのは、日本限定で販売された「エクスクルーシブエディション」という特別仕様車でした。最大の特徴はそのボディカラー。鮮やかな黄色(スピードイエロー)が施されており、さらにホイールまでも同色という、かなり個性的な一台でした。
一般的な車選びでは避けられがちな黄色のスポーツカーですが、私は一目見た瞬間に「これだ」と感じました。起業の苦しい時期を乗り越えた自分へのご褒美として、あえて目立つ色を選ぶことに小さな喜びを感じたのです。
中古車市場でもそれほど多くはない左ハンドル・マニュアルトランスミッションという組み合わせも、私にとっては魅力的でした。右手でシフトノブを操作する感覚は新鮮で、まるで海外の映画で見るようなドライビングスタイルを体験できることに、ちょっとした高揚感を覚えたものです。
期待と現実
ただ、比較的安価で購入できたこの車には、やはりそれなりの理由がありました。走行してみると直進安定性にやや難があり、高速道路では常にハンドル修正が必要なほどでした。後に判明したことですが、おそらく過去に修理歴があったようで、アライメントが完全には調整されていなかったのかもしれません。
また、オープンカーゆえの剛性感の無さも気になりました。舗装が荒れた道を走ると、ドアやルーフ周りからビビリ音がすることもあり、これは既に10年近く経過した車ゆえの仕方ない部分だったかもしれません。
それでも、エンジンを回した時のサウンドと加速感、コーナリングの楽しさは、確かにポルシェならではのものでした。特に2500回転を超えたあたりから始まるエンジン音の変化と、それに伴う加速の高揚感は、どんな不満も吹き飛ばしてくれるほどの魅力を持っていました。
中央に鎮座するエンジン
ボクスターの最大の特徴は、そのミッドシップレイアウトにあります。911がリアエンジンであるのに対し、ボクスターはドライバーの真後ろにエンジンを配置しています。この違いは走行フィーリングに大きな影響を与え、特にコーナリング時の安定感には目を見張るものがありました。
911独特の「テールハッピー」な挙動はなく、より素直で予測しやすい動きを示すボクスターは、ある意味では初心者にも扱いやすいポルシェだったと言えるでしょう。エンジン音も、真後ろから聞こえるのではなく、まさに背中で感じるような独特の臨場感がありました。
ポルシェのオープンモデルとしての魅力も、この車の大きな特徴でした。電動開閉式のソフトトップは、停車中に簡単に操作でき、数十秒で開閉が完了します。オープン状態での走行は、風を感じながらエンジン音を堪能できる特別な体験でした。特に初夏の夜、少し汗ばむくらいの気温の中での走行は、今でも鮮明に記憶に残っています。
味わい足りなかった別れ
残念ながら、このボクスターとの時間も長くは続きませんでした。購入から約1年後、会社の拡大に伴い忙しさが増す中、ほとんど乗る時間が取れなくなってきたのです。体が車に完全に慣れる前に、親しくしていた会社のスタッフから「乗りたい」との声があり、譲渡することを決めました。
左ハンドルのマニュアル車という、一般的には扱いづらい組み合わせでしたが、その社員は海外での運転経験があり、むしろ喜んで引き取ってくれました。「大切に乗ります」という彼の言葉に、少しだけ安堵したことを覚えています。
このボクスターとの短い付き合いは、「もっと時間があれば」という物足りなさを残すものでした。エンジンオイルを一度交換しただけで、その真価や走りの魅力を十分に堪能する前に手放すことになってしまったのです。
新旧ポルシェの比較
以前所有した911(996型)とボクスター(986型)は、同時代のポルシェとして多くの共通点を持ちながらも、その走りのキャラクターには明確な違いがありました。
911はリアエンジンならではの独特の挙動と、「ポルシェの顔」としての威厳を感じさせる走りが特徴でした。一方のボクスターは、よりバランスのとれた操縦性と素直な反応が印象的で、ある意味では「より純粋なスポーツカー」としての魅力を持っていました。
当時はあまり意識していませんでしたが、今思えばこの二台のポルシェを短期間ながらも所有できたことは、一人の自動車愛好家としての貴重な経験だったように思います。また、同じメーカーの異なるモデルの違いを体感できたことは、車の設計思想やエンジンレイアウトがもたらす影響について、より深い理解を与えてくれました。
おわりに
ボクスターとの日々は、起業という人生の大きな挑戦の中で、一時的な息抜きのような存在でした。十分に楽しみ切れなかった物足りなさはありますが、再びポルシェのステアリングを握れたことへの喜びと、その独特の走りを味わえたことへの満足感は、確かに私の中に残っています。
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